特定の遺伝子にある変異が親から子へと伝わり、
発症する卵巣がんを「遺伝性卵巣がん」といいます。

特定の遺伝子にある変異が親から子へと伝わり、発症する卵巣がんを「遺伝性卵巣がん」といいます。

卵巣がんと遺伝の関係

卵巣がんと関連のある遺伝子変異

卵巣がんの発生には複数の要因が関与していますが、なかには、遺伝的な要因が関係していることもあります。国内で行われた研究の結果、卵巣がんと診断された患者さんのうち17.8%に、卵巣がんの発生や進行と関連のある遺伝子に病的な変異があることが分かりました。*図1*1さらに、遺伝子に病的な変異がある卵巣がん患者さん(41人)の遺伝子変異の内訳を調べたところ、BRCA1(ビーアールシーエーワン)またはBRCA2(ビーアールシーエーツー)と呼ばれる遺伝子に病的な変異がある患者さんが多いことも分かりました。*図1 *1BRCA遺伝子に病的な変異がある場合は、卵巣がんだけでなく、乳がん、膵臓がん、前立腺がんなどを発症する可能性も高まることが知られています。*2

【図1 遺伝子変異の内訳(卵巣がんと関連のある遺伝子に病的変異がある卵巣がん患者さん 41人)】

図1 卵巣がんの遺伝子変異図1 卵巣がんの遺伝子変異

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは

BRCA遺伝子に生まれつき病的な変異を持つことで、乳がんや卵巣がんをはじめとするがんが発症しやすい状態を「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:エイチビーオーシー)」といいます。
BRCA遺伝子検査により、BRCA1あるいはBRCA2遺伝子に病的な変異が検出されると、HBOCと診断されます。このBRCA1/2遺伝子の変異は、日本の卵巣がん患者さんのうち14.7%、III/IV期の患者さんに限ると24.1%に認められたと報告されています*図2。HBOCの卵巣がん患者さんでは、比較的若い年齢で卵巣がんになる、卵巣がんになったご家族がいるなどの特徴が認められます。*2

【図2 遺伝性のBRCA遺伝子変異の割合】

日本の卵巣がん患者さん634人

図2 遺伝性のBRCA遺伝子変異の割合

Ⅲ・Ⅳ期の患者さん324人

図2 遺伝性のBRCA遺伝子変異の割合

HBOC と関連するがん

HBOC の方では、卵巣がんだけでなく、乳がんや前立腺がんなどを発症するリスクが将来的に高まることが知られています。実際、一般的な日本人では、生涯に卵巣がんを発症するのは1.6%*表1 *5ですが、BRCA1遺伝子に病的な変異がある人では、70歳までに40%が発症し、BRCA2遺伝子に病的な変異がある人では、18%が発症すると報告されています。*表1 *6

【表1 がん発症リスクの比較】
一般的な
日本人
BRCA
遺伝子変異
BRCA
遺伝子変異
乳がんに
かかるリスク
生涯で
10.9%*5
70歳までに
57%*6
70歳までに
49%*6
卵巣がんに
かかるリスク
生涯で
1.6%*5
70歳までに
40%*6
70歳までに
18%*6
前立腺がん*
かかるリスク
生涯で
10.8%*5
70歳までに
25%*7
70歳までに
~15%*8
  • *前立腺は男性だけにある臓器です

また、HBOCにおける卵巣がんの臨床的な特徴としては、漿液性卵巣がんの頻度が高いことや、Ⅲ~Ⅳ期の進行した状態で診断される方が8割を占めることなどが知られています。*9

BRCA1/2遺伝子について

BRCA遺伝子の働き*10*11

BRCA遺伝子は、誰もが持っている遺伝子のひとつで、DNAの傷を修復して、細胞ががん化することを抑える働きがあります。からだの設計図であるDNAは、健康な人でも紫外線や化学物質などの刺激によって日常的に傷つけられています。しかし、通常の細胞には、傷ついたDNAを修復する機能が備わっています。このDNAの修復で重要な働きをしているのが、BRCA遺伝子です。*図3

【図3 BRCA1/2遺伝子】

図3 BRCA1/2遺伝子図3 BRCA1/2遺伝子

遺伝の形式*10*12

親のどちらかがBRCA遺伝子に病的な変異がある場合、その変異は、性別に関わりなく2分の1(50%)の確率で子どもに受け継がれることが知られています。*図5ただし、BRCA遺伝子に病的な変異があっても、全員が必ず乳がんや卵巣がんになるわけではなく、生涯を通じて乳がんや卵巣がんなどにならない方もいます。

図5 BRCA1/2遺伝子の遺伝形式図5 BRCA1/2遺伝子の遺伝形式

BRCA遺伝子の
検査と治療

BRCA遺伝子検査について

BRCA遺伝子検査について

BRCA遺伝子に病的変異があるかどうかを確実に判定するためには、遺伝子検査が必要です。BRCA遺伝子検査は、生まれながらの遺伝情報を調べる検査で、一般的には血液中の白血球から抽出したDNAを調べます。*10
BRCA遺伝子検査の主な目的は、将来がんになるリスクなどを把握し、定期的ながん検診による早期発見、早期治療につなげることにあります。最近では、がんと診断された患者さんに対して、適切な治療法を選択するために行われることもあります。
ただし、BRCA遺伝子検査は、すべての医療機関でできるわけではありません。またBRCA遺伝子検査には、保険診療で受けられるものと、自費診療(保険外診療)となるものがありますので、詳しくは担当医師へお尋ねください。

BRCA遺伝子検査について イメージ図

BRCA遺伝子の変異がある卵巣がんの治療

BRCA遺伝子の変異がある卵巣がんの治療

BRCA遺伝子に病的な変異がある場合でも、治療法は通常の卵巣がんと同じように、手術療法と術後化学療法が基本となります。*13
また、BRCA遺伝子の検査を受け、BRCA遺伝子に病的な変異があることが確認された患者さんについては、初回治療の選択肢が増えることがあります。詳しくは、担当医師へお尋ねください。

BRCA遺伝子の変異がある卵巣がんの治療 イメージ図

【参考】HBOCの可能性があるかどうかを確認するために

下記の項目の中でひとつでも当てはまる場合は、HBOC の可能性が考慮されます。
ただし、HBOCであってもこちらの表に該当しない場合もあります。心配などがある場合は主治医にご相談ください。

「かんたんチェック」

  • □BRCA1、BRCA2 遺伝子の検査を受けて、陽性であることがわかっている方の血縁者
  • □ご自身が乳がんと診断されていて、かつ以下のいずれかに該当する
    • ・45 歳以下で乳がんと診断された方
    • ・両側の乳がん(同時性あるいは異時性)と診断された
    • ・片方の乳房に複数回乳がん(原発性)を診断された
    • ・46~50 歳で乳がんと診断されていて、血縁者に乳がんまたは中等度以上の悪性度の前立腺がんと診断された方がいる
      (家族歴が不明な場合、血縁者の人数が少ない場合は考慮する)
    • ・60 歳以下で、トリプルネガティブの乳がんと診断された
    • ・血縁者に卵巣がん、転移性の前立腺がん、膵臓がん、50 歳以下の乳がんのいずれかの診断を受けた人が1 人以上いる方
    • ・血縁者に男性で乳がんと診断された方がいる
  • □ご自身が男性で乳がんと診断された
  • □ご自身が卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
  • □ご自身が膵臓がんと診断された
  • □ご自身が転移性の前立腺がんと診断された

※血縁者の範囲:
父母、兄弟姉妹、異母・異父の兄弟姉妹、子ども、おい・めい、父方あるいは母方のおじ・おば・祖父・祖母、大おじ・大おば、いとこ、孫など

一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構:遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)をご理解いただくためにver.2020_1, p6,2020

HBOC の Q&A

  • Q1一般の乳がん・卵巣がんと
    HBOCは、何が違うのですか?
    A1

    がんの発生には、個人的な体質の違いに影響する遺伝要因と、食事や飲酒、喫煙といった生活習慣やホルモン環境、妊娠・分娩などの後天的要因(環境要因)が関係します。
    一般のがんはどちらかというと環境要因の影響がより強いのに対し、HBOCは「BRCA」と呼ばれる遺伝子に病気になりやすい変異があることが原因であり、より遺伝要因の影響が強いがんといえます。HBOCの場合は、がんになりやすい遺伝要因が親から子に伝わる可能性があることも特徴のひとつです。*10

  • Q2BRCA遺伝子に変異があると
    必ずがんになりますか?
    A2

    BRCA遺伝子に病的な変異があっても、必ず乳がんや卵巣がんになるわけではありません。ただし、一般の方よりも乳がんや卵巣がんになる確率が高くなります。男性がこの遺伝子変異を持っている場合は、前立腺がんになる確率が高くなるといわれています。*10

  • Q3遺伝子検査をせずに
    BRCA遺伝子に変異を持っている
    可能性を知る方法はありますか?
    A3

    現時点では、BRCA遺伝子に病的変異があるかどうかを確実に判定するためには遺伝子検査※が必要です。本人のがんの既往歴、家族歴などの情報から、BRCA遺伝子に病気になりやすい変異を持っている可能性をある程度予測できるツールが開発されています。ただし、それぞれ入力する情報が異なり予測力には限界があります。
    ※検査には、保険診療で受けられるものと、自費診療(保険外診療)となるものがありますので、詳しくは担当医師へお尋ねください。

  • Q4遺伝について
    不安なことや疑問があるときは誰に聞いたらいいですか?
    A4

    治療に関することは、担当医師にご相談ください。また、治療以外の遺伝に関わる不安や疑問については、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーと呼ばれる遺伝の専門家がいますので、そちらにご相談ください。

  • Q5遺伝カウンセリングは
    どこで受けられますか?
    A5

    かかりつけの医療機関がある方は、まず、そちらにご相談ください。
    患者さんご本人以外の方は、原則として自費診療(保険外診療)となり、費用などは施設ごとに異なります。詳細は遺伝カウンセリングを受けようとしている施設にお問い合わせください。