アピアランスケア がん治療による外見の変化と向き合うために

*この記事は目白大学看護学部看護学科教授 野澤桂子先生にお話をうかがいました。

卵巣がん患者の暮らしのヒント、アピアランスケア・がん治療による外見の変化と向き合うために

がんの治療においては、抗がん剤治療に伴う毛髪の変化や外科治療に伴う創傷などの外見の変化により、多くの患者さんが苦痛を感じています。卵巣がんの患者さんにとっては、脱毛や浮腫(むくみ)などが苦痛度の高い症状です1,2)

最近の報告では、外見の変化を理由に学校や職場を休んだり、辞めた経験をもつ患者さんが42.6%います3)。そして、それを減らすためには、「からだ」「こころ」「社会」という3つの視点による支援「アピアランスケア」が重要だということがわかってきました3)

つまり、患者さんが社会と関わりながら自分らしく過ごすためには、外見の変化への対処方法だけでなく、外見の変化による「悩み」に対応する心理的ケアや対人場面でのコミュニケーション方法などの支援が欠かせません。外見に悩むみなさんも、ぜひポイントを押さえて、治療期間を上手に乗り切りましょう。

まず、副作用の症状と治療期間中の体調変化を確認しましょう

自分の治療では外見にどのような症状がいつ現れるのか、体調はどのようなサイクルで変化するのか、他の患者さんはどのような生活をしたのかを、主治医や看護師に確認しましょう。
例えば、3週間間隔での抗がん剤の治療なら、最初の1週目は疲れやすく気分が優れない日が多いかもしれませんが、2週目にはかなり回復し、3週目には治療の前のように元気に過ごす方も多いです。そのため、仕事や趣味を上手に取り入れることは、メンタルを健やかに保ちながら長い治療期間を乗り切るためにとても大切です。短時間勤務で仕事を続けた方、治療クールの間に旅行をした方もいます。まずは、ご自分のプランをもとに、服装やヘアスタイルを具体的に考えてみましょう。

ケア製品選びで大切なのは自分のこころとからだに気持ちよいこと

患者さん向けのケア用品では、無添加や弱酸性、天然由来、オーガニック、ノンアセトン、肌に優しい化粧品など、その言葉だけで清々しい気持ちになるようなさまざまな製品の宣伝を目にします。これらの言葉は、「治療により皮膚や毛髪に特別な症状が出るので、これまでと同じ物を使ってはいけないのではないか」「生活を変えなければまたがんになるのではないか」という患者さんの不安な心理に訴えかけます。

しかし、がん患者さんに唯一勧められる製品も、反対にがん患者だから悪化するというデータのある製品も、現時点では存在しません。「これまで通りの製品を使い、合わなくなったら変更する」というのが科学的にも妥当な選択です。

大切なのは値段や宣伝文句ではなく、お肌の乾燥が気になるときにはいつもよりたっぷりの保湿を心がけるなど、自分のこころとからだが気持ちよいと感じることです。もちろん、治療によって顕著な乾燥や皮疹が生じる場合は、あらかじめ病院から保湿剤や軟膏が出されるので、その指示に従ってください。

▼ 基本的で大切な情報:まずはこちらから
アピアランスケアについて(横浜市公式サイト)

メイク用品イラスト
  • 「これまで通りの製品を使い、合わなくなったら変更する」でOK
  • 自分のこころとからだが気持ちよいと感じることを大切にしましょう

外見が気になる場面をシミュレーションしておきましょう

会社や学校に行ったとき、友人に会ったときなど、患者さん一人ひとりに外見の変化が気になるシーンがあります。例えば、「ヘアスタイル変えた?」って聞かれたらなんて答えよう、とシミュレーションしておくことが大切です。
それでも不安な場合には、原点に帰ってよく考えてみましょう。例えば、職場は仕事をするところですから、多少外見が変わっても、患者さんが以前のような態度で受け答えをし、仕事をしていたら、周囲は安心します。1週間もすれば、前の髪型も忘れてしまうでしょう。

最も避けたいのは、「ウィッグがバレないか」と思いながら対応することです。これは、その思いによって会話に集中できないばかりか、鏡や窓に目が向いてしまい、相手に「なんか上の空な感じで何があったのだろうか」というマイナスな印象を与えてしまうからです。患者さんのなかには、「気分転換」「ストレスの薄毛隠し」「髪染めが面倒になった」などの適当な理由をつけて、「『おしゃれウィッグにしたの、どう?』と話したら『素敵ね!』で終わったわ。」と話す方もいます。

外見の秘密、他人に話す必要はありません

病気のことは重要なプライバシーですから、他人に話す必要はありませんし、嘘をついても構いません。嘘は心苦しいと思うような相手に対しては、治療が終わった後に「あのときは自分の気持ちがついていかなくて」と話せばよいのです。こちらが嘘をつけないと思うような優しい相手なら、きっと「大変だったね」で終わるはずです。

もちろん、正直に話しても構いません。ただ、その場合は、「がんになった」とだけ話すのは止めましょう。相手の人は、あなたがどうして欲しいのかわからずに、混乱するからです。

病気の話は、例えば、「治療で10回に1回しか参加できないかもしれないけど、めげずに誘ってね。」などと、相手の人ができる具体的なこととセットで伝えましょう。お互いに何かができるという、対等な人間関係を維持する工夫をすることが大切です。

外見の悩みの相談先は?

アピアランスケアの取り組みは、病院によってさまざまです。まずは通院している病院に、アピアランスケア専門の窓口があるかどうかを確認しましょう。専門の窓口がなければ、相談支援センターに相談するとよいでしょう。
また、さまざまな症状への細かな対処方法を、動画で提供している民間企業もあります。広く情報を収集し、上手に活用しましょう。

  • 参考文献
  • 1)Nozawa K, et al. Psychooncology 2013; 22(9): 2140-2147
  • 2)野澤桂子、藤間勝子編「臨床で活かすがん患者のアピアランスケア」、南山堂、2017年
  • 3)Nozawa K, et al. Glob Health Med 2023; 5(1): 54-61.